サークル・ウェスト・アーキテクツ社のオーナー社長であり建築設計主任であるピーター・M・コリオポーロス氏(以下ピーター)は、イリノイ工科大学で建築を学び、かつて同校で学科主任をしていた建築家ミース・ファン・デル・ローエの影響を色濃く受けました。今回のインタビューはミースの影響が彼の建築とデザインにどのように反映されているかといった話題から始まります。
※ミース:20世紀のモダン建築を代表するドイツ建築家(1886-1969) フランクロイド・ライト、ル・コルビジェと並び近代建築の3大巨匠と呼ばれる
ミース - モダニズム建築とピーターへの影響
Peter: 先ずイリノイ工科大学で、学び、経験したことからお話します。大学ではミースの建築思想を研究していました。とりわけ、建物のプロポーションとスケールの調和といったテーマに注目していました。加えて、建築資材の素材本来の特性を正しく理解し、最適な資材を最適な手法で設計していくことを研究しました。プロポーションとスケールを調和させるという建築家としての視点は、あらゆる条件の設計業務で、常に私の作品に自由な感性と自信を与えてくれています。この調和を理解することは、高度な建築計画のための強力なツールでもあるのです。私はしばしば前衛的なミースの思想の書かれた資料を参考にします。ミースの時代の作品は、時代を超えて今日も色あせていません。今日、過去のミースの作品の数々を見るたびに、彼のデザインの真価に驚かされます。
ファンスワースハウスは個人住宅に対するミースの哲学を知る好例です。この作品には、本来目に見えぬ透明な空間(空間としての空気)に関する彼の考え方がこめられています。連続した空間、そこをどのように人は行きかうのか、そして光はその環境にどのような影響を与えるのか、ミースの思想の全てがここに表現されています。さらに、ミースの信念と思想とも言える、新しい素材と新しい技術への取り組みも実現しています。
私は建築物とは、美しく、耐久性があり、100年でも200年でも使えるようにデザインされるべきだと信じています。人と建物と環境には自然なつながりがあるのです。このつながりは美しくあるべきなのです。人はこのつながりをはっきりと言葉で説明できないかもしれません。しかし、経験を通して実感しているのです。私達サークル・ウェスト社のゴールは、まさに、このような力強くポジティブな“つながり”を人々に提供することなのです。
Jim: これを成し遂げるのは本当に大変なことですね。デザインと実際の工事のポイントについて少し説明してください。
Peter: 私達のデザインプロセスは革新的、創造的であることがキーになっています。どんな発想も自由に受け入れますし、逆に私達のアイデアもオープンにしています。私達は 現場の環境を読み取ることから始めます。そのために私達はフレームワークと呼ぶ独自の手順を用意しています。この手順は自由度があり、そして開かれたものです。私達は、周りの環境も出来る限りデザインに反映します。この配慮は企画や素材の選定に大きな意味を持っています。
シカゴ時代
私は大学を卒業後、シカゴにあるデザイン会社に勤務しました。ここでも、大学で学んだデザインの原理原則は変わらず、私はすぐに会社に適応することが出来ました。
コロラド時代 その後、スキー好きで結ばれた縁で、現在の妻と一緒になり、コロラド州、ウェール市に移り住みます。ここではたくさんの人脈を築くことが出来ました。もちろんスキーもたっぷり楽しみました。このころウェール市に自分の建築事務所を開設していましたが、シカゴ育ちの私には、全てが新鮮な経験でした。気候や植物、そして山々の風景まで、新しいことばかりです。ここでは全てのプロジェクトに私が全責任を持っていましたから、いつも新しいことへの挑戦でした。特にこの地の著名人の個人住宅を手がける機会も多く、私は多くのことを学ぶことが出来ました。この経験が、全米規模での顧客獲得につながっていきます。
アリゾナ時代
ウェール市での経験と、私の近代建築の考え方は、アリゾナでも歓迎されました。もちろんここはウェール市と違って、ここでは“砂漠の町”としてのデザインが求められます。私がここで主張してきたのは、デザインは歴史を反映し、歴史から学ぶべきですが、しかし古典的なものではない言うことです。デザインはその表現と理解においてモダンであるべきなのです。それは環境への取り組みであり、時を越えた取り組みなのです。まさに、新しい、フォーム・発想・素材への緒戦です。それは、建築的に「空間と光」を解析することなのです。
ここアリゾナではスコッツディル市のプロジェクトから始まり、次第に規模を拡大してきました。現在では、豪華な一戸建て住宅から、高級マンションまで手がけています。オフィスビル、複合施設のプロジェクトも進行しています。
Jim: 先ほど言われていたように、シカゴからロッキーのウェール、そして太陽の谷フェニックスへと、ずいぶん違う環境で、建築を手がけてこられたことは、環境へ配慮や、素材の選択において、挑戦の連続だったのでしょうね。
Peter: そうですね。シカゴからコロラドに移った時には、同じ雪にも質的な違いがあることを学びました。アリゾナの穏やかな気候は、自由な発想の実現を可能にする場所ですが、同時に、強い太陽光から生まれる光と影を正しくコントロールしなくてはいけません。この気候をうまくデザインに取りいれていけば、かなり自由なデザインを実現できる場所といえますね。
Market Street at DC Ranch マーケット・ストリート
Jim: スコツディル市には、風景に特徴が無く、歴史的な足跡の無い地域がありますが、ピーターさんのプロジェクトの一つ、マーケット・ストリートも、そのような地域に建てられました。これは、ピーターさんのプロジェクトが、この地域の意味づけを行ったと考えてよいのでしょうか。
Peter: そう言って頂けるとうれしいですね。確かに、これは以前述べた、革新性と創造性をもってデザインされた好例です。これは、この地にあるべき建築物のフォルムを捜し求めた結論なのです。砂漠では、標高を含めたロケーションの理解が計画のポイントになります。
※ アリゾナの砂漠には、地方によってかなり特徴に差があります。まったく植物がない、石と砂だけの砂漠と、サボテンの森があるように砂漠に変化した植物がたっぷりある砂漠があります。高地の砂漠にはまた別の特徴があります。
特に、素材と色には大変神経を使いました。マーケット・ストリートが成功したのは、出来る限り施設全体の環境に注意を払った結果と考えています。私達が試みたのは、空間のつながりです。日差しをさえぎる庇とその影を利用して、それぞれの空間を視覚的にも、物理的にも関連を持たせようとしたのです。もちろんその具体的なシルエットの計画には大変苦労しましたし、砂漠に似合う色を模索するところでも試行錯誤の連続でした。この試みの中で、建築資材に現場にあるものをそのまま使うという発想も生まれました。たとえば、現場で掘り出した石はすべて、建築物と現場の整地に利用されまた。砂漠の植物も同様に、もともと現場にあったものをそのまま、植え替えて残しました。この資材の現地調達という発想は、砂漠では大きな効力を発揮しました。このことは、この地の環境保護に貢献することにもつながりました。

Jim: これらのプロジェクトにはどのぐらい時間をかけるのですか?
Peter:デザインで12ヶ月から18ヶ月。現場は場合によっては2-3年かかることもあります。
Jim: その全てにかかわるわけですね。
Peter: もちろんです。最初のアイデアデザインから竣工までかかわります。設立以来そうしていますから。
Jim: 顧客はサークル・ウェスト社に何を期待しているのでしょうか。
Peter: それはとてもいい質問ですね。私達の社名が表わすように、クライアントと共同で、クライアントとの“輪”(サークル)を大切にした独自のデザインを追及していくようにしているのです。私達の独自の取り組みにクライアントがより満足していただけるよう努力しています。ですから、クライアントの開発への参加は大きな意味を持っています。
Jim: クライアントの参加とは具体的にどのようなことですか。一緒に現場を見たり、材料を吟味したりとか?
Peter: すなわち、経験の共有です。私の役割は、おもに共同作業のデザインリーダーといったところです。つまり、クライアントの目的を完璧に理解して、それを目に見える形にし、実現していくことです。必要とあらば、毎日でも会って、議論していきますよ。そういった意味でクライアントは、私の良き友人でもあるのです。私は、全てにオープンで何一つ隠し事をしません。そうした姿勢が、クライアントとわが社に良い関係をもたらしていると思います。これは、私の生き方であり仕事への取り組み方なのです。
ピーター邸
A Desert Mirage
Jim: ピーターさんの考え方は、個人住宅でも同じと考えてよいのですか。
Peter: もちろん同じプロセスを踏みます。クライアントを自宅に招待することもあるのですよ。最近自宅のリフォームをしたばかりなのですが、理由は、もちろん家内と子供のためということもありますが、クライアントに実際に自宅を見てもらって、わが社の品質と、建築感覚を理解してもらうのが狙いでした。家に来て夕食やパーティーを共にしてもらえれば、私の建築に対するデザインコンセプトも、こだわりも、実感してもらえます。この試みは、非常に有意義ですよ。百聞は一見に如かずですから。
Peter's Desert Home
Jim: つまり、ご自宅はピーターさんの建築センスを表現する実物大のプレゼンテーションツールということですね。
Peter: その通りです。今度のわが家は、「砂漠への現代的な介入」とでもいいましょうか、とにかく、とてもシンプルなフォルムなのです。30年前に新築したときは、周りは本当に砂漠だったものですから、青々とした植物をずいぶん植えたりしたのですが、今回のリフォームでは逆に、150年前の自然な砂漠の状態に戻しました。これには面白い副産物があって、今はあまり見なくなった、動物や鳥、そして昆虫が戻ってきたのです。この、いい意味で環境に影響を与えるということは、とてもエキサイティングな出来事でした。
Jim: こうした考え方は、どんな環境でも応用できそうですね。
Peter: まったくその通りですね。
パゴサ・スプリング
Jim: コロラド州のパゴサ・スプリングというプロジェクトは、松林との融合を意識したと聞きますが、少し説明していただけますか。
Peter: パゴサ・スプリングは、各戸140から230平方メートルほどの集合住宅です。
Shinkenchiku(新建築)
Jim: 貴社のホームページに掲載されている作品に「shinkenchiku」プロジェクトというのがありましたが。
Peter:これは1998年に、日本の「新建築コンクール」に出展した住宅をテーマにした、
デザインのコンセプトワークです。コンクールでは主催者が用意した特定のテーマで各社、デザインを競います。ロケーションや建築規模などは無く、条件はただ「住まい」というだけで、そのほかは全て自由でした。私のデザインは、粉々になったクリスタルガラスが岩山の一方から吊るされているような建築物です。これは「禅」を意識した住まいなんです。ロケーションは人里離れた山奥で、毎日暮らす場所ということではないのですが、雑踏から逃れて一人瞑想にふけったり、家族と静かにくつろいだりといった施設です。クリスタルグラスの裂け目は、周りの山や近隣との断絶を表現しているんですよ。
Jim: 教会や美術館としてもいいですね。
Peter: そうですね。このプロジェクトに興味のある方がおられればうれしいのですが。
Goodhouse グッドハウス Jim: このプロジェクトは半透明な外壁と、透過性のあるパネルを使っていますね。
Peter: グッドハウスは大勢で暮らせる住宅なんですが、外壁を組み替えることで、個人のプライバシーを守ったり、住人各々を主張するようなことが出来るのです。建物の基本構造は、とてもシンプルで経済的です。1戸およそ111.5平方メートです。コンパクトで高度な経済性を狙っています。グッドハウスには、不透明、透明、半透明の材料が使われています。
このデザインは、汎用性がありますから、とても経済的ですし、自由度の高さから周りの環境に融合していくことも容易です。しかも家主の個性も主張できると思います。この建築の基本構造はモジュール化されていますので、量産型住宅としても対応します。このコンセプトを元にして、グッドハウスII,ニューハウスと次世代のモデルも開発しました。面積と内装は違いますが、各モデルの基本構造は同じです。 
LandSource Tempe ランドソース・テンピー
Jim: イメージではランドソース・テンピーはルミネセンスな光(熱をおびない光)を放っていますね。
Peter:そうですね。これは建物全体をランタンをイメージしてデザインしたのです。これはガラスを使った新素材を使っています。この素材は太陽熱をコントロールして、断熱性にすぐれています。このほか、それぞれの住居には天井から床までの可動壁があり、フレキシブルな住まい方が可能です。内装の可動壁と、外壁の新素材で、太陽の光と熱をコントロールするわけです。この機能で、このマンションは毎日表情を変えることになるかも知れません。これは、住人と建築物の新しい結びつきと言えるのではないでしょうか。

サークル・ウェスト社
Jim: サークル・ウェスト社では、現在何人お勤めですか。
Peter: 15名です。先ず私が、クライアントとデザインの方向性を決め、その後、社員がプロジェクトに参加していきます。
Jim: 日本からのオファーがあったらどうしますか。
Peter: 即、飛んで行きますよ。実は今外国からのプロジェクトを、検討しているところなんです。これから12-18ヶ月の間に外国の顧客からの、新しいプロジェクトが始まるかもしれません。
Jim: そうすると、日本の顧客が御社に相談するには、いいタイミングですね。
Peter: そうですね!
結びに
Jim: ピーターさん、取材に応じていただき有難うございました。
Peter: こちらこそ有難うございました。サークル・ウェスト社は多くの人と出会い、いい関係をつくっていきたいと願っています。そしてこのサイトの読者の方々とも、デザインについても語り合えることを願っています。
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