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#02 マーク伊東 ─今日本に伝えたい、空間の使い方、LEEDのこと プリント メール
作者 辻川紗矢    2009/06/15 月曜日 00:00:00 JST
ホテルデザインを中心に、日本とアメリカを行き来するマーク伊東氏。アメリカで感じる空間の上手な使い方を自分なりに咀嚼し、居心地の良いデザインとして日本に換言し伝える。そして、これまでに培ってきた経験から新たに動き出した、次なる「ライフワーク」とは。

mito02.jpg──まず、こちらに来られたきっかけを教えてください

実は僕、日本の大学では土木工学をやっていたんです。卒業後大手の設計事務所に入って構造設計をしていました。ただ、それってエンジニアリングなので、1+1ってだれがやっても2なんですよね。だったら僕じゃなくてもいいよね、という単純な発想です。あとは、デザインにものすごく興味があったので、その夢を捨てきれずにアメリカに来ました。それでパサデナにあるアートセンターというデザインスクールに行ったんです。建築ではなく、アートセンターに行ったことでアメリカでおもしろい仕事もいろいろできたので、そうなると帰る理由がなくなって、という感じです。

──日本のホテルを数多く手がけられていますね。日本ではなくアメリカにオフィスを構えてお仕事をされる理由は?

僕が扱っているのは、人間が動く空間であり「室内」です。その空間のつくり方、使い方、考え方が圧倒的に僕はアメリカの人たちの方が上手だと思うんです。それはここにいればいる程感じますね。だから僕はそれをまず自分で身につけて、日本語で日本の人たちに伝えたいと思っているんです。西洋の良いところを日本に持っていくパイプ役、橋渡しをしたいなと常々思いながらやっています。気づいたらアメリカへ来て今年でもう24年なんですけど、日本全体を見渡すと、まだまだもっと良くなる可能性があるといつも感じるので、それを皆さんにわかっていただくお手伝いをしたいなって。だから僕はここで、いろんなものを見聞きして、それを日本に伝えていくんです。かっこよく言えば、そういうことですね。

──こちらにいることで大変なことはありますか?

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オフィスのある建物は海に近く、CAのまぶしい陽射しが降り注ぐ
それはやっぱり、お客さんに近いところにいたほうが圧倒的に有利ですよね。だからそういう意味で僕はすごく不利な立場で、たとえば何人かの候補者がいた場合、他の人がみんな日本に事務所があれば、一人だけカリフォルニアというのはやっぱり、お客さんからすれば不便ですし。直接会って話をした方がどうしても意思が通じるでしょう。それは圧倒的にあると思いますよ。だからこっちでやるというのはそれなりの覚悟をしないと、簡単なことじゃないと思う。それなりのアウトプット、パフォーマンスをしていかないと難しいですよ、やっぱり。日本にいるデザイナーと同じことをしていたら、意味ないですから。

──だから、アメリカにいるからこそのデザインを日本への橋渡しとして、していくということですね

そう。だからそれをきちんと表現していかなければいけませんね。日本にも優れたデザイナーさんはいっぱいいるし、世界に誇れるデザイナーさんがいっぱいいるでしょう。だからその逆で、僕みたいな極めて外国と日本の中間にいるような人間は、外から何か持ち込むことができない限り、ここで仕事をするというのは簡単なことじゃないと思います。

──デザインをする上で具体的にこちらで影響を受けたのはどういうことですか?

一番わかりやすいのが、アメリカでよく言うんですけど、ホテルは「Home away from home」であると。つまりホテルは「家から離れたところの家」なんですよね。海外の人たちはバケーションなんていうと1~2週間単位で過ごしますよね。そうすると、家にいるだけの満足感や使いやすさがあって、でも旅行に来たという期待も裏切らない。そういう考え方でデザインをします。あとは、日本とアメリカで圧倒的に違うのはロビー。日本はまだまだロビーに対する考え方が曖昧です。というのは日本の人たちは比較的、全体像よりも個々のディテールにこだわるので、ついゲストルームに気持ちが行ってしまうんですよね。ゲストルームのお風呂場のシャワーがどうだとか、どんどんそういう細かいところに話がいってしまうんだけれど、アメリカはそうではなくて、ホテル全体の雰囲気。我々の言葉で「sence of arrival」なんて言うんですけど、要するにロビーに到着したときの満足感ですね。だから僕は個々のものよりも、空気感とか雰囲気を大事にして、五感で感じるデザインを目指しています。
あとは、住宅で言えばキッチンの考え方、お手洗い、お風呂だって違う。お手洗いなんて家の中に3つも4つもあったりするし、大きな家だったらそれぞれの部屋にシャワールームとお手洗いがあるということが、ある程度のレベルになると当り前になってくる。洗面所にシンクが2つあるのもこの国では特別なことではないので、それを当り前としている人たちが旅行に行ってシンクが2つ無かったらものすごい不便なんですよ。そういう生活観とデザインとが直結している部分、それを僕が具現化していくというのかな。

──その中で、マークさん自身のオリジナリティを出している部分を教えてください

よくデザイナーというとオリジナリティとかクリエイティブっていうイメージがあるみたいなんですけど、むしろ僕はそれを隠します。僕のデザインを見るのは、プロジェクトの向う側にいる、デザインには素人のホテルのゲストの方なんですよ。だからよく見ればすごくオリジナリティがあるし、クリエイティブなんだけども、そういった素人の人たちにも分かりやすく、心地の良いデザインを心がけています。クリエイティブなデザインというと、往々にしてやり過ぎな場合があって、そのデザインに裏づけがあるのか、無いのか。一瞬の「どうだ!」というデザインよりも、繰り返し繰り返し使える、噛めば噛むほど味が出るような、しかもそれがすごくハイレベルで出来上がるものを僕はやりたい。だからクオリティは落としたくないけれど、とんがっている部分はどんどん削っていきたいですね。あくまでも、ホテルのゲストがすごく高いレベルで満足ができるデザインを提供するのが僕の仕事だと思っています。辞書で「design」と引くと「設計」という意味があるでしょう。でも日本でデザインというとカタカナ商売のデザイナーみたいでニュアンスが違うんですよね。僕は漢字の「設計」のほうであって、技術者、職人、つまりカタチを扱う職人という意識がすごくあるので、それが僕の仕事かな、と。

──計算のできる、理に適ったデザインということですか?

そう。さらにもっと説明すれば、僕が狙っているのは、さっき言ったように「五感で感じるデザイン」なんです。五感でなんとなく感じるデザイン。「空気感」なんですよね。でもそのなんとなくの空気感を感じてもらうためには、色、照明、光、大きさ、個々のひとつずつをしつこいぐらい綿密にデザインします。そういった個々のディテールって、実はそこに来るゲストには関係がなくて、どうでもいいはずなんですよね。素人さんが僕のデザインしたホテルに行って、「わぁここいいわね」って言ったとしても、その理由までは説明できないと思います。「なんとなく良い」ってなるんじゃないかな。だからうちのデザイナー達にも言っているんですけど、僕らが最終的につくり出したいのは空気感だから、そのためには個々のものに手を抜いたらダメだよって。うちの成績票をつけるのはプロフェッショナルの人たちではなくて、ホテルやレストランのゲストの方々。だからその人たちをきちんと満足させて、リピートしてもらえるように貢献しなくちゃならないわけで、絶対に手は抜けないですよね。

──これまでに手がけられた作品の一部を見ていきます。

■ メトロポリタン丸の内(ホテル)

マーク伊東「メトロポリタン丸の内(ホテル)」一番最近完成したんですよ。ものすごく良い出来でした。この画像はレセプションで、決して高級ホテルというわけではないんですが、夜になるとすごく雰囲気が出るので、是非夕方暗くなってから訪れていただきたいです。





■ ブリリア鎌倉(マンション)

建築を黒川紀章、僕がインテリアを手がけた東京建物のマンション。お客さんが「パースより出来の良い実物は初めて見た」って言ってくれたんです。さらに、このモデルルームを気に入ってくれたお客さんがいて、全く同じレイアウトの部屋を全く同じ仕様でオプションも全部付けて買ってくれて、それはちょっと嬉しかったですね。mito_kamakura01.jpgmito_kamakura02.jpg

■ グランドプリンスホテル高輪(ホテル)

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品川にあるプリンスホテルです。うちで全部デザインをして、モデルルームをつくったときに、「プリンス」から「グランドプリンス」に、ホテルのグレードが1つ上がったんです。そういう意味では成功したプロジェクトですね。






■ 赤坂タワーレジデンス Top of the Hill(マンション)

こういう家に住む人は自分で料理をしないだろうということでキッチンはプロ仕様にしています。ダイニングルームに扉が2つあるんですけど、これはバトラーがディナーのときにちゃんとキッチンからサービスできるように、ということでつくった導線です。マスターベッドルームにはバスルームに行く扉をつけて、この裏にはフル装備のバーを設置しています。だからここでカクテルを飲んだり、場合によっては朝食でもいいだろうし。そういったことをこっちにいると発想できるんです。部屋の使い方、考え方がもう全然違いますよね。さっき言った、ここにいないと出てこない発想、ということなんです。
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■ ホテル日航東京(お台場)

大規模なリニューアルで、全部僕らでデザインしています。その中で一部屋「Tokyo Balocony Room」というタイトルで、グリーンコンセプトの部屋を提案してつくったんですよ。室内環境を高めるということで、建材から家具に至るまでオーガニックの素材にこだわってつくりました。新築のときから明らかに他の部屋と違ったので、IIDA(International Interior Design Association)の日本支部でレクチャーした際に、この部屋を見せたら皆さんすごく驚いてましたね。「空気が全然違う!」って。
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──グリーンコンセプトというお話がありましたが、そういったところにもこだわってデザインされているんですか?

アメリカでは「LEED(The Leadership in Energy and Environmental Design)」というんですが、LEED AP(Acclaimed Professional)という資格を取ってプロフェッショナル登録ができたので、これからそのセミナーを開いたりして広めていこうと、実はもうその活動もしているんです。「エコデザインハウス」というデザインコンテストの審査委員長もやるんですが、いわゆる環境問題、グリーンにちゃんとかかわっていきましょうと。
もう一つ、僕が今提案しているのが「空気をデザインする」ということ。さっき言った空気感は、あくまでもデザイン上の話ですが、そうではなくて「今あなたが呼吸しているその空気が大事」ということを伝えたくて。ホテルに泊まったときに窓を開けたくなったことありますよね。どんなに良いデザインのホテルでも窓を開けたくなってしまう。だったら僕はデザインが良くて、窓を開けたくならない部屋をつくろうと。アメリカだとホテルに泊まって、肌がチクチクしたとか頭が痛くなったという具体的な経験があると答えた人は2/3、60%以上もいるんですよ。それって問題ですよね。ホテルって僕の仕事なわけですから、何かしないとと思って。それで今やっているのは人に伝えていくということ。LEEDって、インテリアではそれほどまだ現実的じゃないんです。でも少なくともそのコンセプトを今僕は人に伝えたい。日本のデザイナーとか建築業界、それから肌の弱い女性、これから子どもが生まれる人、話を伝えたい人は山ほどいるので、そういった人たちにセミナーや啓蒙活動をして伝えていこうかなと。デザインや見た目が良いのは当たり前というか、僕ができることって、これまでやってきてある意味では自信がついたので、その上にさらに何かあってもいいんじゃないかと。だから今「空気をデザインするデザイナー」という肩書きをつけようかなと思っているぐらいです。

──具体的にどうやって「空気をデザイン」されるんですか?

それは、空調のシステムから始まって、使う素材、建築素材、家具…シックハウスって実は家具が原因なんですよ。今ここで呼吸している空気というのが人間にとってどれだけ大事なのかって、僕は商売柄、昔から体で知っていたんですけど、ただ今まで僕が実現したいデザインとそれって噛み合わなかった。なぜかと言うと、素材も材料も技術も無かったからです。でもここ数年、アメリカでグリーンの話が出て、いろいろなメーカーがいろいろなものを作り始めて、だんだん実現できるようになってきたので、やっと僕のデザインに乗っかるな、と。最近では、そのまま捨てても土に戻って何も汚さないといったソファもありますからね。そこで赤ん坊が寝てても絶対にアトピーにはならないし、化学物質過敏症の人も寝られるし、喘息も出ない。そういう家具になれば空気も全然違ったものになると。僕はデザインに妥協はしたくない。妥協しちゃったら意味がないので。だから、僕ができるベストなデザインの中で、その空気をどこまで持っていけるかというのが、僕の次のライフワークなんです。

──是非日本の人にももっと知ってもらいたいですね

そういったものが比較的身近にあるって知らなかったでしょう。だから僕はデザイナーさんを教育したい。こうすればこれだけ空気が良くなるよって。建築の人も、換気の問題とかエアコンの考え方とか、いろんなことを考えなくちゃいけないんです。やっぱり子どもたちとか、病気の人を守っていきたい。そういう人たちに旅行に来てほしい。だって、僕のつくったホテルに泊まれない子がいて、修学旅行に参加できない子がいて、ホテルなんて泊まれないっていうお年寄りがいて、それっておかしいじゃない。それはまずい。それは僕の仕事だから絶対に許せないことで、楽しんでもらうためにつくってる施設なんだから、もっと良くしていかなくちゃって。それを僕は教えていけるので。そんな話に今、取り組んでいるところなんですよ。

──最後に、マークさんにとってデザインとは?

たとえばそのホテルが高級であろうが、そうでなかろうが、とにかく心地が良いこと。心地の良い空間が一番です。でもそれってすごく難しいことでね、1つのもので万人が心地良くは絶対にならない。だからそのホテルによって、ここの場所のここのホテルだったらこのぐらいが心地良いはずだよ、というものを僕はつくっていく。それが僕の仕事だと思っています。


マーク (政保) 伊東 Mark Masayoshi Ito

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M-Ito Design, Inc. President
東京出身。日本大学理工学部を卒業後、大手設計事務所にて構造設計に携わる。数年の経験を経た後1985年渡米。 カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)を経て1989年アートセンターカレッジオブデザイン卒業。卒業と同時に米国屈指のホテルデザイン事務所、バリーデザインアソシエーツに在籍。1991年プロジェクトディレクターとなる。在職中には米国内外のホテル、レストラン、住宅など幅広いプロジェクトを手がけた。 また、ディレクターとして手がけた幾つかのプロジェクトは米国で高い評価を受けデザイン関係誌で受賞経験もある。
M-Ito Design, Inc.   2121 Rosecrans Ave. Suite 4335 El Segundo, CA 90245, U.S.A 
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最終更新日 ( 2010/02/23 火曜日 20:04:35 JST )
 
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